「Nagasaki Peace-preneur Forum」:被爆地・長崎の新たな挑戦~~対話で分断を乗り越える

筆者 林田 光弘さん

プロフィール
長崎市出身。一般社団法人Peace Education Lab Nagasaki代表。)2016-2020年ヒバクシャ国際署名のキャンペーンリーダー。 2021-2023年度にかけて長崎大学核兵器廃絶研究センター特任研究員として「被爆前の日常アーカイブ」プロジェクトを担当。2024年からONE YOUNG WORLD長崎協議会の一員として、「Nagasaki Peace-preneur Forum」(長崎ピースプレナー・フォーラム)の事務局を担当。

2024年5月、新たな国際フォーラム「Peace-preneur Forum」(長崎ピースプレナー・フォーラム/以下、NPPF)が、被爆地・長崎でスタートした。”Peace-preneur”とは、「Peace(平和)」と「Entrepreneur(起業家)」を組み合わせた造語で、産官学の連携で誕生し実施されている。国籍・人種・宗教・性別といった線引きを超越して、対話を通じて国際的な課題や身近な社会問題への解を模索し、主体的に行動する人材を育成することを目的としている。

林田 光弘さん (本人提供)

NPPFは、世界190カ国以上から2,000人以上の次世代リーダーが集う世界最大級の国際プラットフォーム「One Young World」(以下、OYW)の支援のもと開催されている。OYWは「若者のダボス会議」とも称され、2009年の創設以来、毎年異なる国でサミットを開催し、気候変動や紛争解決をはじめとする地球規模の課題について世界各地の有為な若者たちが議論を交わしてきた。OYW参加者は、サミット後もSNSを通じてネットワークを維持し、ビジネスや社会活動といった多様な領域で新たなインパクトを生み出している。

プレゼンテーションの準備をする参加者たち(林田さん提供)
壇上での新しいアイディアの発表(林田さん提供)

NPPFの主催団体は、OYW長崎協議会である。被爆80年となる2025年を本格始動の年と位置付け、2024年の初回大会(NPPF2024)をその準備段階とした。NPPF2024では、メインゲストとして中満泉国連事務次長を迎え、総勢280名が参加した。海外からの参加者は限定的であったものの、留学生を含めると参加者の国籍は25カ国に及んだ。企業関係者や平和活動に従事する実業家・活動家に加え、地元長崎の高校生・大学生も積極的に参加した。長崎東高校の生徒からは「このフォーラムを通じて将来の夢が決まった」との声も聞かれ、若者が進路を考えるきっかけとなったことがうかがえる。

2025年5月には、NPPF2025を開催予定である。本大会よりメインコンセプトを設定することとなり、今年は「分断」と「対話」がキーワードにした。

近年、遠くでも近くでも分断(分断未満の対立を含めて)の深刻化を実感させられる。ロシア・ウクライナ戦争においては、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの対立のみならず、トランプ政権誕生以降はNATO内の亀裂も目立っている。しかし、分断現象は国家関係にとどまらない。残念なことに、経済格差や人種、思想、宗教、性別をめぐる差別など、身の回りで日常的に進行している。特に近年、SNSによる「エコーチェンバー現象」 がこの傾向を加速させている1。 企業や教育組織でも、時代遅れの組織構造・体質や世代間ギャップが分断の一因となっている。

分断を克服していくには、自らとは異なる背景や価値観を持つ人々との対話が不可欠である。ただ、ハードルは決して低くない。対話の場を設けること自体が容易ではなく、仮に実現したとしても、それを制度化・定期化し、継続的に発展させることにはいくつもの困難が伴う。そこで、NPPF2025では手始めに、世界・社会・組織の分断を克服するための対話の設計および推進方法を探求することにした。分断を越えた先にある共生社会の意義と必要性を共有していくため、DEI(Diversity / Equity / Inclusion、多様性/公平性 / 包摂性)の概念にも着目し、これをいかに発展させるかについて対話を重ねる。

前回NPPF大会での気づきとして特筆すべき点をあげておきたい。それは参加者の多様な立場、背景である。国際機関の関係者、大学教授、企業の経営者、起業家、アクティビスト、高校生・大学生など、多種多様なアクターの視点が交錯することにより、抽象的かつ普遍的な議論から、具体的な実践的手法に至るまで、幅広い対話が展開された。NPPF2025においても、異なる個性、特徴を持つ人々が交わるコミュニケーションの場を意識的にデザインすることを計画している。

長崎は、被爆地として戦争がもたらす甚大な被害と脅威を知る都市である。一方で、日本屈指の軍需産業の城下町でもあった。両方の歴史を胸に刻みながら長崎は、核兵器廃絶と平和の実現を世界に向けて訴え続けてきた。鎖国時代において長崎は、「出島」を通じて海外との交流を継続してきた歴史を持つ。かつて小さな出島が大きな影響を与えたように、NPPFを通じて、未来の平和を担う若者を育成し、社会に大きな変革をもたらすことを目指したい。

「エコーチェンバー現象とは、ネット上の掲示板やSNSなど自分と似たような考えや価値観、趣味嗜好を持った人たちが集まる閉鎖的な空間でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や思想が肯定されることで、自身の主張する意見や思想が、あたかも世の中一般的にそうである、世の中における正解であるかのごとく勘違いしてしまう現象のことである」(https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20805.html)