オピニオン ゲームを活用した新しい学びと対話 1

筆者 西山心さん

プロフィール:
長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)客員研究員。長崎大学多文化社会学研究科の博士後期課程に在学中。長崎活水中学高等学校出身。活水に在学中は平和学習部に所属し、被爆の記憶継承活動に携わる。国際基督教大学卒。米国ミドルベリー国際大学院モントレー校で不拡散(修士)を専攻。2024年にウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)で研究インターンシップ、包括的核実験禁止条約機構フェロー。現在は、国連軍縮事務局ユース非核リーダー基金メンターもかねる。

西山心

時を忘れて思わず没頭してしまうもの――ゲーム。パズル型、育成型、ロールプレイングなど、たくさんのジャンルがあるが、子どもから大人まで幅広い年齢層のプレイヤーが世界中にいる。私自身もその一人であり、「ゲームが欲しい」と3年間サンタクロースに手紙を書き続け初めて手にした任天堂のゲーム機は、ゲーム体験の原点である。当時、仮想の小さな町を開拓するゲームに熱中し、アイテム交換やキャラクター育成のために花やきのこ採取に奮闘していた。

小さな町の開拓を終え、すっかりゲームから離れて大学生になった。私は、必修科目であった生物学の講義を聴いていた。理系科目は得意ではなくノートを取るのさえ必死だったのだが、「毒」にまつわる回だったあの日の講義は、不思議なことになつかしさに包まれた。教授が「可愛らしい毒キノコ」としてベニテングダケを取り上げた際、うっかり“それ“を食べてHPの画面が暗転する―――かつてプレイしたゲームでのシーンがよみがえったのだ。「…知っている!」と、ゲームを通じて得た知識が学問の文脈でふと顔を出す。学びのきっかけは、放課後に鉛筆代わりに手にしたゲーム機の中にも広がっていたのだ。

CTBTを知る情報源として、論文や動画教材、ソーシャルメディアなどがあるが、どれも受動的になりやすい。そこで、CTBTに関するアプリケーションを開発し、ゲームが持つ教育的側面を活かしてデジタルネイティブ世代である若者とのつながりを広げ、魅力的な核軍縮・不拡散教育の機会を創出してはどうかと提言した。

実はゲーミフィケーションが持つ動機づけの力(Dichev and Dicheva. 2017 [2])は、学術界と実践の場で注目と関心が高まっている。現在世界中で約30億900万人のアクティブゲームプレイヤーがいる統計を踏まえると(Duarte. 2025 [3])、ゲームの影響力は若者にも与えていると考えられる。またゲーミフィケーションは、言語での説明が最小限であっても、ボタン操作やビジュアルを通じプレイを楽しめることから、母語に依存しない理解の促進が期待できる。ゲーミフィケーション活用を論じた共同論文は、フェローシップ内で優れた論文として表彰され、ロバート・フロイドCTBTO局長と国際連合の中満泉事務次長・上級代表(軍縮担当)より、「これまでにない画期的なアプローチ」との好評を頂いた。

オーストリア Vienna Center for Disarmament and Non-Proliferation の研究インターンでの一枚(西山さん提供)

ところで、共同論文で示したゲームとは、一体どのような中身なのか。残念ながら、同論内では時間の制約上、コンテンツ内容を十分に構築することができなかった。核兵器使用の影響を学べるクイズ形式のゲーム、政策の意思決定構造を体験するシミュレーションゲーム、各国の交渉過程を学ぶロールプレイングゲームなど、さまざまなタイプが考えられる。いま、この文章を読んでいるあなたは、どのようなゲームをプレイしてみたいだろうか。

こうしたゲーム形式のアプローチは、若い世代の関心を引きつけるだけでなく、参加者同士の対話を促す手段としても有効だと感じている。より多くの人々が核問題を「自分ごと」として捉えて対話できる機会をつくる、そうした形で対話人を交差させる力をゲーミフィケーションは秘めているように思える。